令和3年9月24日
横浜国立大学教授 泉 宏之
はじめに、想定し得なかったコロナ禍の中、任期を1年延長し、対応に尽力された佐藤信彦前会長をはじめとする役員の皆さまに、心より感謝を申し上げます。
この2年間、全国大会および地域部会等、全てがオンラインでの開催となりました。会員の皆さまと直接お会いできる日が、一日も早く来ることを願っております。
このたび、第37回全国大会での役員改選に伴う新理事会におきまして、第12代会長に選出されました。もとより微力ではございますが、学会の管理・運営に努める所存です。
1985年に設立された日本簿記学会の設立趣旨の冒頭に、次のような記載があります。少々長くなりますが、引用させていただきます。
「簿記学は会計学の部分領域というよりも、その基底的な学問領域である。しかしながら、近年における会計事象の複雑多岐化にもとづく会計学領域の拡大、およびそれに伴う研究活動の急速な進展、さらに、コンピューターによる記帳処理方法の発展にもかかわらず、その基底にある記録計算技術としての簿記に関する研究および教育の現状は、かならずしも十全とはいえない状況にある」
すでに30年以上を経た文章ですが、その内容および状況は、現在においても全く同じであると感じます。私たちも、このことを再認識する必要があるのではないでしょうか。ここにこそ、簿記の理論・教育・実務を研究対象とする日本簿記学会の存在意義があると考えております。本学会が、「会計学」ではなく「簿記学」を論じ合うことができる場になることを、強く望んでおります。
とりわけ、私が強く感じているのは、簿記教育における内容です。周知のように、日本商工会議所の簿記検定試験の出題範囲や高等学校の学習指導要領から、特殊仕訳帳制や五伝票制が削除されました。簿記は、帳簿記入の略語であると言われることがあるように、簿記教育においても帳簿組織は重要な論点として扱われてきました。しかし、それがIT技術の進展等にともない、実務の観点から大きな曲がり角を迎えていると思います。実務イコール教育ではないとは思うものの、教育の内容に与える影響も見逃すことはできません。これは、簿記教育の目標は何かという、非常に大きな課題にもつながります。簿記教育において普遍的な内容は何なのか、ということを考えることが求められている時なのではないでしょうか。
私自身は、設立時からの会員ではなく、大学教員となった1990年に本学会に入会いたしました。その後、本学会を通じて、多くの諸先輩のもと、簿記を学び続けてまいりました。そのご恩返しのためにも、会長としての職務を全うしたいと思っております。会員の皆さまのご協力のほど、なにとぞよろしくお願い申し上げます。